小説さながらの迫真の内幕記事
通常国会が先月末に開会しました。6月下旬の会期末まで、次の年度の国の予算案や実施に必要な法律案を審議します。
今国会は、リクルート事件以来の「30年ぶりの政治改革国会」と呼ばれているそうです。政治資金パーティーを利用した自民党派閥による組織的な裏金作りが昨年12月に発覚。複数の国会議員が刑事責任を追及されるとともに、政治資金規正法の「ザル法」ぶりが浮かびました。裏金作りの実態や裏金の使い道は今なお、明らかになっておらず、国会では今後、事実関係の解明と再発防止策をめぐって、与野党の激しい論戦が予想されています。
また、9月には岸田首相が自民党総裁としての任期満了を迎えます。支持率が低迷するなかで続投できるのか、できないのか。衆院議員の任期も折り返し地点を過ぎており、解散・総選挙をにらんで政局が大きく動く可能性もあります。
旧知の松田京平・政治部長に単刀直入に聞きました。
「朝日新聞の政治報道の『売り』は何ですか?」
政治部では、数十人の記者が国会や首相官邸、中央省庁、政党本部を拠点に日々、政局や政策、国会論戦を取材しています。松田部長の答えは単純明快でした。
「特ダネです。権力者たちが何をしているのか、何を考えているのか。ネタで勝負しています」
みなさんも「番記者」という言葉を聞いたことがあるでしょう。
首相や閣僚、政党の実力者など特定の人物にはりついて、動きを絶えず取材する記者のことです。たとえば、岸田首相の動静をウォッチしている「総理番」は朝日新聞社の場合、3人います。政治部の数十人の記者はそれぞれ、自分が担当する政治家や官僚たちが誰と会い、何を話し、何を考えているのかをマンツーマンの態勢で取材しています。
政治は首相の一存ですべてが決まるわけではありません。自民党の派閥や連立政権を組む公明党、中央省庁の意向や思惑に左右されます。これに野党の主張や地方自治体の声、世論が重層的に作用します。
多くの取材対象を「定点観測」して初めて、政治権力の意思決定や 複雑な権力構造の変化が見えてくる。これらは、私たちの暮らしにも影響を与えます。「権力監視」が政治報道で番記者制度をとる理由です。番記者たちが政治家を囲んで取材している映像がテレビで流れることがありますが、できる記者は他メディアとの横並びの取材をこなしつつ、取材対象の予定を事前に把握して移動の車に同乗したり、地元選挙区に戻るところを同行したり、サシ(一対一)で話を聞ける状況を自ら作って、独自の情報を得ています。
独自の情報を積み上げて初めて、政治の動きや隠されていた事実をいち早く読者のみなさんに伝えることができます。拉致問題をめぐって昨年9月29日の朝刊1面に掲載された「日朝、今春2回の秘密接触」や、自民党の裏金疑惑を受けて12月10日付朝刊1面に掲載された「松野・西村・萩生田氏、更迭へ」といったスクープ記事がそうです。
松田部長の言う「特ダネ」はストレートニュースに限りません。
「政治は夜動く」と言いますが、政治の世界では国民の目が届かない場所で物事が方向付けられていることが少なくありません。番記者たちが得たさまざまな情報から、密室のやりとりを明るみにして、権力者の思惑を読み解く「インサイド記事」も「特ダネ」です。
たとえば、「萩生田官房長官」の誕生が幻に終わった昨年9月の内閣改造の内幕から岸田官邸の思惑と揺れを紹介した記事は出色でした。直近では、裏金事件にからんで、岸田首相が岸田派の解散検討を唐突に表明した際の麻生太郎副総裁の動きを再現し、党内の反発を読み解いた1月20日付朝刊の記事も真に迫るものでした。
さまざまな思惑を持ったプレーヤーたちが密室でうごめくさまは小説さながらです。
他方、こうした機密性の高い情報は、国会議員や中央省庁の幹部だからといって知りえるわけではありません。さまざまな情報源へのアクセス権を持ち、それを生かす力があるメディアだけが得られるのです。
読者のみなさんを引きつける人間模様の活写と、永田町・霞が関のプロを満足させる情報の深さも、朝日新聞の政治報道の売りです。
スクープ記事やインサイド記事の多くは 1~3面に掲載されますが、かつて政治面と呼んでいた4面にも、キラリと光る記事があります。政治ニュースの舞台裏や話題を日曜日に月イチペースで伝える「フロントライン 政治」や、国会の不思議な決まりや知られざるエピソードを紹介する「国会ネホリハホリ」などです。いずれも、読者のみなさんに政治を身近に感じてもらえる読み物です。
記者の権力との距離の取り方に、社会の厳しい目が向けられている時代です。密着すれども癒着せず。朝日新聞政治部の記者たちは日々、権力監視の使命を胸に自らの襟を正しつつ、取材対象との距離を詰めています。
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